「入出国在留管理庁 技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の中間報告書」を読んで
技能実習制度についての見直し
出入国在留管理庁では、令和4年11月22日の「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」において、技能実習生制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議が設置され、令和4年12月14日から令和5年4月28日まで計7回にわたって開催され、中間報告書がまとめられました。
検討の基本的な論点
(1)制度目的と実態を踏まえた制度の在り方(技能実習)
(2)外国人が成長しつつ、中長期に活躍できる制度(キャリアパス)の構築
(3)受入れ見込数の設定等のあり方
(4)転籍のあり方(技能実習)
(5)管理監督や支援体制のあり方
(6)外国人の日本語能力向上に向けた取組み
それぞれの論点についての方向性は中間報告書(概要)の通りです。
(出典)出入国在留管理庁ホームページより
中間報告書を読んで考えたこと
中間報告書から私が焦点を当てた論旨は以下の通りです。
技能実習生制度は全くの労働力確保とは言いませんが、その観点が少なからずあるのは明白です。そうであるなら、正面から労働者として雇用し、労働者として持っている転職を含めた権利を行使できる環境を作りましょう。とは言え、技能移転という側面もやはりあって、移転できる技能を身につけるまでは、小手先の労働条件良し悪し(主に給与)だけで、右往左往と転職しているようでは、外国人人材も雇用主もお互いにいい結果になりません。
マクロの人口動態で考えると、日本はここ10年で100万人くらい外国人材に来てもらわないと、経済規模を保てなくなるのは自明です。ただ、労働者としての権利が侵害されても、多少問題のある処遇であっても、日本に行きたいし、プラスマイナスで考えたらプラスだと思う、そんな魅力にあふれた国だと、この日本はいえるのでしょうか。
このような状況認識を共有した上で、社会に参加する一員として外国人材を迎え、労働者として基本的な権利を保障しながら、経済的にも技能的にも外国人材が努力することに前向きになることができ、その努力が報いられるような制度設計にしていきましょう。その中でも優秀な外国人材が日本に住み続けることを望むような社会に変革していきながら、ある程度長期の人生設計ができるような制度を作り、日本社会の活力になっていくようにしていきたいです。
これを実現するには、外国人材が働くための以下の諸問題の解決が必要です。
・キャリア支援はどうするのか。
・借金が強制労働に繋がっている指摘がある。送出し機関やブローカーへの多額の紹介料負担させない仕組み作りをどう作っていくか。
・日本語教育をどうするのか。
・転職可能にした場合の初期費用負担の取り扱いルールをどう定めるか。
・地方部でも外国人材が留まり、活躍していってもらうには技能実習から特定技能、そして定住へ向けての一貫したルールとルートの整理。
これから来年の最終報告に向けて議論が進められます。
外国人材の受入を自分事として考える
外国人材の受入については、主義主張、業界としての立場、隣人として生活者の立場で考えた場合など、それぞれ思いは違うと思います。受け入れる側の日本人の個々の考え方も尊重されるべきであるのは言うまでもありません。一方、現実的に人手不足で必要なサービスが提供できなくなりつつある業種があるのも事実です。
我が国の人口の推移
(出典)2015年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を除く)、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位・死亡中位推計)
2040年には、現在より1300万人程度の生産人口が減ります。私が携わっている高齢者福祉業界においては、2040年の介護職需要が69万人増えることが推計されています。単純計算ですが、就労者の約10%が高齢者福祉分野で働いていると推計されていますので、需要の増える分、生産人口の減る分を上下で考えると200万人程度の介護職が必要となります。明らかに介護職が不足します。この需給ギャップの結論を市場経済の論理のみに委ねてしまった場合、どういったことが起こるのでしょうか。
国が国である意義は、社会保障と安全保障だと思います。社会保障の担い手がおらず、人生の最終盤に「こんなに辛い思いをしなければいけないなんて…」と後悔にさいなまれるような国。死に際まで経済的格差に振り回され、困っている人に対して自己責任論でその人の人生をぶった切るような国。そんな国はディストピアだと思います。
それより多様な人が尊重しあい、共生していけるような社会作りをしていく努力をしていくことの方が有意義だと思います。それは外国人材の人権を守ることだけでなく、私たち日本国人の人権を守ることに繋がっていくように思います。
最晩年にどのような介護を受けたいか、自分に引き付けて考えるときに、上から目線ないい方ですが、隣人としてどういう外国人材なら一緒に住みたいか。また自分が外国で働くなら、どのような制度であってほしいか、という思考実験をしてみると、今までになかった気付きをあるかもしれません。
この記事を書いた人
武中朋彦
ジョイスリー株式会社代表
大学卒業後、IT企業にてシステムエンジニア(SE)として勤務。SE業務の傍ら、個々の社員のスキルアップを目指し、人事と連携してコーチングを実践、人材活性化に取り組む。
その後、福祉業界に転職。各種福祉サービスの整備、職員採用、サービス開始まで一連の事業開発に従事したのち、人事・事業開発部長として延べ1000人以上の採用募集、面接を実施する