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2024-03-25

『育成就労制度』が閣議決定 医療・介護事業者への影響は?

2022年12月から16回にわたり開催された有識者会議での議論を踏まえた最終報告書が、令和5年11月30日(木)、法務大臣に提出されました。それを受けて日本政府は2024年3月15日、技能実習に代わる新制度「育成就労」を新設する法案などを閣議決定しました。法案は今国会へ提出され、成立すれば2027年までの施行が見込まれています。

今までは外国人人材といえば「技能実習生」という時代が続いていた中で、米国や国連などから技能実習制度の人権問題を指摘され、改正を余儀なくされてきた状況。人口減少に伴う、働き手の確保が国内では到底賄いきれない状況が重なり、制度改正の後押しとなりました。

在留資格制度の変更

現状、医療・介護事業者での外国人人材の確保策は、技能実習生、特定技能が2大在留資格といっていいと思います。今回の改正でそのうちの技能実習生制度が廃止されます。
技能移転を目的としていた技能実習生制度から、労働目的である特定技能に制度統一されました。

出入国在留管理庁HP
出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案概要(令和6年3月15日閣議決定)より

新制度の目的 人材育成

新制度の目的は、人材確保と人材育成です。技能実習制度が労働力確保の目的で活用されてきた実態を、ようやく正面から認めたとも言えます。では「人材育成」とはどういうことでしょうか。

2018年の入管法改定(翌19年施行)によって、深刻な労働力不足に対応するために、在留資格「特定技能」が創設されました。特定技能には、最長5年間で、家族の帯同が認められていない1号と、家族帯同が可能で、通算在留期間に制限のない2号があります。ちなみに「介護」は2号がなく、介護福祉士試験を合格し在留資格「介護」という高度人材ビザになります。
新制度は、未熟練労働者として受け入れた外国人を、特定技能1号に移行できる水準に育成しようというものです。つまり、外国人の出身国のためではなく、受入れ国である日本の労働力不足解消に資するよう、育成しようという制度です。そのため、新制度の受入れ対象分野は、特定技能制度における「特定産業分野」に一致させるとしています。

新制度では、日本語と技能の試験に合格しなければ育成就労から特定技能に移行できません。つまり、育成の結果、一定レベルに達しない外国人は帰国しなければいけません。一定レベルに達しなければ、帰国してくださいという制度設計です。
各業界において育成就労から特定技能への移行試験を実施することになります。試験内容についてはこれから議論されることになります。現状の特定技能「介護」の試験では、母国語の教科書を基に母国語で試験されております。今回の移行試験問題を何語で出題されるかが合格率に影響するため、実施要項について関心が高まるところです。

最大の変更点 転職の自由

今回の見直しの最大の争点は、転籍の自由です。新制度では、転籍要件が緩和され、自己都合の転籍が認められるようになりました。しかしながら、同一受入れ機関での1年を超える就労、日本語と技能試験の合格などの要件が設定されることで、一定の転籍制限が維持されています。

加えて、たとえ要件を満たしたとしても、転籍先が見つからなければ、転籍できません。現行制度でも、やむを得ない事情がある場合には、転籍が認められていますが、監理団体や技能実習機構による転籍支援はうまく機能していません。外国人の権利保護という観点からすれば、転籍が実質的に保証されない限り、技能実習制度の問題点が継承されてしまう可能性が高いと言えます。
これに対して、受入れ機関や地域からは、転籍要件が緩和されることで、賃金などの労働条件の良い都市部へ外国人が流出してしまうことを危惧する声があがっています。

実のところ、技能実習生制度を利用していた医療・介護事業者は「転職できない」というところに一番のメリットを感じていらっしゃったところが多かったのではないでしょうか。

このような受入れサイドの不安にこたえるためか、最終報告書では、転籍要件の就労期間に関して、当分の間、受入れ分野によっては、1年を超える期間を設定することを認めるといった、受入れ機関や地域に対する「配慮」とも言える経過措置が示されています。「経過措置」の導入により転籍は有名無実化する可能性もあり、結果、外国人の権利侵害が解消されないことが憂慮されます。

今後の医療介護事業者取るべき方向性は

外国人人材を受入れられる事業者が求められるものは、
業務遂行に必要な日本語能力があること
5年間定着して業務を担ってほしい
5年経過後も介護福祉士を取得し、永続的に働いてほしい
この3点だと思います。

育成就労では入国時は日本語能力がJLPT-N5とされています。医療介護業務を実施するにあたり、コミュニケーションの重要性は言うまでもありません。その上でJLPT-N5というのは業務遂行に十分とは言えません。特定技能レベルであるJLPT-N4が最低レベル、入社時にJLPT-N3レベルが欲しいというところが本音だと思います。
その上でできるだけ早い段階で「介護福祉士」まで取得し、永続的な勤務を可能にし、登録支援機関の支援も必要なくなり、支援費もなくなる。ということが、医療介護事業者の求める状態であると考えます。
そうしたことを踏まえた上で、定着のポイントである「無借金」「一気通貫した育成・支援」体制を作っていくことが、長期の人材確保戦略を考える上での方向性だと考えております。

この記事を書いた人

武中朋彦

ジョイスリー株式会社代表
大学卒業後、IT企業にてシステムエンジニア(SE)として勤務。SE業務の傍ら、個々の社員のスキルアップを目指し、人事と連携してコーチングを実践、人材活性化に取り組む。
その後、福祉業界に転職。各種福祉サービスの整備、職員採用、サービス開始まで一連の事業開発に従事したのち、人事・事業開発部長として延べ1000人以上の採用募集、面接を実施する